給与差し押さえは自己破産で解除できる?
債権者からの催促が何度も送られてきたものの、どうしたら良いかわからずそのまま放置してしまい、その結果、「給与が差し押さえられてしまった」という方は、今すぐに対処する必要があります。
また、給与差し押さえは自己破産で解除が出来ますが、まだ給与を差し押さえられていない方は、起こりうるデメリットを回避するために、できる限り差し押さえされる前に対処したいところです。
今回は、給与が差し押さえられてしまう理由と差し押えの流れ、差し押さえの影響、差し押さえの解除方法と自己破産、差し押さえ前に出来る対処法について、ご説明します。
このコラムの目次
1.給与差し押さえとは?
まず、給与差し押さえとはどのようなものか、差し押さえられた理由は何なのかについてご説明します。
(1) 給与差し押さえの内容
世の中にはさまざまな債務が存在します。その中でも、家のローン、車のローン、借金の返済、奨学金の返済など、ローンという形で物やサービスを購入している方は非常に多いと言えます。
ただ、毎月のローンの支払いがきっちり出来ている場合は問題ありませんが、少しずつローンの返済が滞っていき、いつの間にか返せなくなってしまったという方もいらっしゃるでしょう。
給与差し押さえは、このように、何らかの借金の返済が遅れている・滞っている債務者に対し、その債権者が裁判所を通じて行なう強制執行という債権回収方法の1つであり、債務者の給料から債権を回収する方法を指します。
給与差し押さえを含めた強制執行は、法的に認められた手続であり、債権回収方法としては、かなり一般的です。
(2) 差し押さえられる金額
給与差し押さえは、原則として、給与の1/4まで差し押さえが可能です。
ここでいう給与とは、いわゆる手取り額のことですが、その計算方法は、基本給及び諸手当(通勤手当は除く)から、税金や社会保険料などの法定控除額を差し引いた残額を指します。
他方、社宅費、組合費、共済費、生命保険、積立金、財形貯蓄などは、給与から控除されていたとしても、差押対象金額の計算上は控除が出来ません。
ただし、給与=手取り額が33万円以上である場合は、給与から33万円を差し引いた金額or給与の1/4のどちらか多い方が、差押可能な金額となります。
そのため、例えば、給与の額が60万円である場合は、60万円の4分の1(15万円)よりも、60万円から33万円を差し引いた金額(27万円)の方が大きいので、差押可能な給与の範囲は、15万円ではなく27万円となります。
通常は、裁判所からの通知で差し押さえが実行されますが、税金や社会保険などを滞納しているケースで、税務署等が差し押さえをかける場合は、滞納処分という形で、裁判所を通さずにいきなり差押が実行されるケースもあります。
ちなみに、強制執行では、給与以外にも、預貯金や不動産、動産などの債務者の財産を差し押さえることが出来ます。
2.給与差し押さえまでの流れ
給与差し押さえは、以下のように進んでいきます(なお、税金等を除き、差押を行なうには、債権者は、判決等の債務名義を取得しておく必要があります。以下の説明は、既に債務名義が取られていることを前提とするものです)。
《給与差し押さえの流れ》
裁判所への申し立て→差押命令→差押命令正本送付→給与差し押さえ
まず、債権者が、債務者の住所を管轄する裁判所に対して、債権差押命令の申立てを行ないます。これは、給与の差し押さえとは、正確に言えば、給与債権(債務者が勤務先に対して持っている給与支払請求権)の差し押さえだからです。
次に、債権者からの申立てに関し、裁判所が申立に理由があると判断すれば、裁判所は、債権差押命令を発令します。このとき、債権差押命令の正本は、債務者と勤務先(第三債務者)に送達されますが、債務者による財産隠しを防ぐためには、債務者に知られる前に、勤務先へ先に送達する必要があります。
そして、最後に、勤務先に対して給与の差し押さえが実行され、差押対象となった給与は、債務者に支払われず、最終的に債権者がこれを取り立てます。これで債権の回収は完了となります。
給与差し押さえの流れは、思っている以上にシンプルです。
債務者が返済をしない場合に、催告や督促状を出し、それでも応じない場合に、上記のような手段を選ぶことになります。
給与を差し押さえられると、会社には通知がいくため、まずこの時点で、差押をかけてきた債権者に対して、あなたが借金・ローンの返済をしていないことが、勤務先にバレてしまいます。
会社は強制執行=裁判所の差押命令に抗うことは出来ませんので、いくら会社に事情を説明しても、差し押さえがストップする訳ではありません。
また、差し押さえの期日ですが、債権差押命令から1週間以上経過すると、債権者自ら取り立てを行えます。
しかし、具体的な期日に関しては、いつになるかわかりません。
というのも、債務者が差し押さえ期日を知ってしまうと、その前に、債務者が財産を隠匿したり、会社を辞めてしまったりすることが想定出来るためです。
以上から、催促や督促状が来た段階で対処をすることが大切です。
3.給与差し押さえの影響
給料が差し押さえられてしまうと、実生活にはどのような影響が出るのでしょうか。考えられる主な影響としては、以下のようなものがあります。
- 毎月受け取れる給料が減る
- 生活が厳しくなる
- 会社に事務処理上の迷惑をかける
- 家族に給料が減った理由を説明しなければいけない
まず、毎月受け取れる給料が確実に減ります。手取り額がいくらであれ、最低、その給料の1/4はカットとなるため、なんとか生活は出来たとしても、苦しい日々が訪れることが予想出来ます。
また、会社の給料から直接差し引きされてしまうため、差し押さえ金額の計算などの手間もかかります。
そうなると、会社に事務処理上の迷惑がかかることの他、「お金にだらしない人」という印象がついてしまうかもしれません。
さらに、ご家族と生計を共にしている場合は、給料が少なくなった理由を説明しなければいけません。
家族に借金していること自体をバレたくない場合は、ここで上手く誤魔化さなければならないでしょうが、いきなり4分の1も給与が入らなくなれば、それを隠し通すのは至難の業でしょう。
このように、給与を差し押さえられてしまうと、生活面にさまざまな影響が出ます。
まだ、差し押さえされる前に回避出来る余地があるならば、出来る限り早期に対処すべきだといえるでしょう。
4.差し押さえの解除方法
破産法249条1項では「…破産手続廃止の決定があったときは…破産者の財産に対する破産債権に基づく強制執行はすることができず…」と規定しています。
そのため、既に給与差し押さえが裁判所に申立てられてしまっている場合は、その後、自己破産を申し立て、同時廃止事件となり、手続廃止決定を受けたときは、給与差押手続を中止させることが出来ます。
但し、ここでいう手続の「中止」とは、後述する手続の「失効」とは異なり、差押手続自体はまだ残っており、差押対象の給与を、債務者が直接受け取ることは出来ませんが、他方で、債権者が取立をすることも出来ない状態となります(そのため、差押分の給与は、勤務先にプールされることになります)。
自己破産とは、債務者の債務の全て(但し、税金等は除く)の免除(免責)を裁判所に認めてもらう、債務整理の方法の1つです。
裁判所に免責が認められたら、今抱えている借金を全てゼロにすることが出来ますが、手持ちの財産の殆ど(法律上あるいは裁判所の許可により保有が認められたもの以外)は換価・処分され、債権者への配当に回されてしまいます。
さて、同時廃止事件(破産管財人が付かない破産手続)で、免責許可の決定が出た場合には、その時点で、給与差押手続が失効します。
すると、債務者は、その後に支給される給与を満額受け取れるようになる他、差押手続が中止されて以降に勤務先にプールされていた給料も受け取れます。
他方、免責不許可で終わった場合には、従前の給与差し押さえが再開される上、勤務先にプールされていた給与も債権者に取られてしまいます。
次に、破産申立をした後、破産管財人が付く管財事件として処理される場合には、破産手続開始決定が出た時点で、給与差押命令は失効します。
管財事件の場合、自己破産手続が開始された時点で、執行取消しの上申書を破産管財人が給与差し押さえを執行している裁判所(執行裁判所)に提出します。これにより、給与差し押さえは解除され、債務者は、それ以降に支給される給与を満額受け取れるようになります。
したがって、同時廃止事件と比較すると、管財事件の方が、給与が満額受け取れるようになる時期が早いことになります。
また、同時廃止事件の場合は、免責不許可になった場合は、一旦中止されていた給与差押手続が再開されることになるのに対し、管財事件の場合は、たとえ免責不許可になったとしても、もともとの給与差押手続は、破産手続開始決定の時点で既に失効しているので、破産手続終了後に債権者が給与差し押さえをかけるには、改めて一から差し押さえの申立を行なう必要があります。
ただし、いずれにせよ、既に始まっている給与差押手続を、その後の自己破産をもって解除するという場合は、差し押さえ解除の関係で、破産の事実が勤務先に知られることになってしまいます。
その意味でも、給与を差し押さえられる前に対応を取ることが肝要です。
このように、給与差し押さえは自己破産で解除出来ます。もっとも、自己破産にはメリットとデメリットがありますので、ご自身にとって最適な選択かどうかは、個別に弁護士にご相談頂くのがベストです。
5.差し押さえ前にできる対処法
差し押さえが実行される前なら、債務整理の選択肢の幅が広がります。
自己破産を行うと、自宅や車などの財産を手放さなければいけなくなってしまい、負担が大きいといわれています。
そのため、任意整理、個人再生なども検討可能です。
任意整理は、債権者との交渉により利息を法定利息に換算し直し、借金総額を減額する債務整理の方法です。
基本的に元本は減額出来ないので、自己破産や個人再生に比べると、返済の負担が大きいですが、自分で整理したい債務を選べるのが特徴です。
個人再生は、借金額が大きい方に適した債務整理方法です。借金を概ね1/5程度まで減額させることが出来ます。
こちらの方法では元本も減額でき、また、自己破産と異なり、持ち家等の財産を、処分せずに残すことも可能です。
もっとも、借金の減額のためには、裁判所による再生計画の認可が必要です。
なお、個人再生でも、再生手続開始決定の時点で給与差押手続が中止され、最終的に再生計画の認可決定が得られると給与差押手続が失効しますが(逆に、再生計画が不認可となった場合は、一旦中止されていた給与差押手続が再開されます)、自己破産と比較すると、給与が満額受け取れるようになるまでには時間がかかります。
給与が差し押さえられる前であれば、このような債務者にとって負担の少ない債務整理の方法を検討することも出来ます。
選択肢を増やすためにも、出来るだけ早い段階で専門家である弁護士に相談することが大切です。出来るなら、給与が差し押さえられる前に対処するようにしましょう。
6.自己破産を検討するなら泉総合法律事務所にご相談を
借金の金額が大きい場合や多重債務の場合、首が回らずに、ついには給与の差し押さえまでされてしまう方が多いようです。
そのような借金問題でお悩みの方は、できるだけ早い段階で自己破産を検討すべきです。
自己破産の手続きやメリット・デメリット、自分に適しているのかなどの疑問をお持ちの方は、ぜひ泉総合法律事務所にご相談ください。
給与差し押さえを解除・回避して、借金問題を根本から解決するお手伝いをさせていただきます。
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