暴力事件(暴行罪と傷害罪)は示談により解決!
酔った勢いで暴力事件を起こしてしまい逮捕、というケースは、よくある事例です。
お酒の力のせいだけではなく、口論から発展してしまったケースもあるでしょう。
人に暴力を振るい警察に逮捕されてしまったら、できるだけ早く弁護士にアドバイスをもらうべきです。
そのまま何もせずに流れに身を任せてしまうと、起訴され前科がつく可能性があります。
今回は、暴力事件を起こしてしまった場合の刑罰、逮捕後の流れ、示談の重要性や示談金額がどのように決まるのかという点までご説明します。
このコラムの目次
1.暴力事件の暴行罪と傷害罪
まず、暴力事件を起こした場合に適用される可能性のある刑罰について理解しておきましょう。
(1) 暴行罪と傷害罪
暴力事件を起こした場合は、暴行罪あるいは傷害罪に問われる可能性があります。
暴行罪における「暴行」とは「他人の身体に対する物理的な有形力を行使する行為」、傷害罪における「傷害」とは「人の生理的機能を害する行為」と定義されます。
怪我が生じたのは生理的機能が害された結果ですから、暴行と傷害の区別の目安としては、酔ったうえでのケンカなどの場合は、殴る蹴るの暴力を加えたが、幸いにも被害者に怪我がなかったケースが暴行罪、怪我をさせてしまったケースが傷害罪となります。
怪我をさせてしまった場合でも、打ち身や擦り傷程度で病院へ通うほどではない場合は、被害の程度が軽いこと、診断書がないので傷害の結果を立証する証拠が乏しいことから、暴行罪が問われるに留まることが多いでしょう。
暴行罪と傷害罪はどちらも刑法に規定されており、それぞれ以下の通りです。
暴行罪
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。傷害罪
人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
見てわかる通り、暴行罪よりも傷害罪の方が罪の上限はかなり重くなっています。
これは傷害罪の場合、被害者に生命の危険を生じさせたり、植物人間となってしまったり、車椅子や義手、義足での生活を余儀なくさせたり、失明させたりなど、被害者が死亡してしまった場合以外のすべての結果を含んでいるからです。
酔った上でのケンカでも、このような重大な結果が生じるケースは決して珍しくはありません。
(2) 示談金の額の相場
暴力事件を穏便に解決したい場合は、被害者との示談が必要となります。
示談は当事者同士で事件の解決を行うものです。このとき損害賠償としての示談金も必要になりますが、この場合も傷害罪の方が負担は大きくなります。具体的には以下の通りです。
《暴力事件の示談金相場》
暴行罪:10〜30万円程度
傷害罪:20〜50万円程度(怪我の程度が軽いケース)
示談金の相場はあくまで目安です。実際の事件の内容(特に被害の内容)や交渉によって、金額は変わってきます。示談金に定まった金額はなく、あくまでも当事者の合意によって成立つものであるためです。
傷害罪の場合、上記の金額は、病院で全治1~2週間程度の打撲などの診断書が発行されたケースを念頭においています。
暴力行為による怪我で入院、通院が必要となったケースでは、慰謝料は、交通事故における傷害慰謝料(入通院慰謝料)の弁護士基準の金額を目安として示談交渉が行われることが通常です(ただし、交通事故は過失であるのに対し、暴力行為は故意の犯罪なので、1~3割程度加算して考える場合が多いです)。
被害者の手足が不自由となったり、顔に傷跡が残ったりするなど、後遺障害が残った場合も交通事故の場合に準じて後遺障害慰謝料、逸失利益を算出します。もちろん、治療費、交通費、付添費用、介護費用なども同様に負担することになります。
このように、暴力行為による傷害、ケンカによる傷害といっても、賠償額が数千万円単位となるケースもあります。
もっとも、自賠責保険、任意保険のある交通事故と異なり、加害者の支払い能力には限界があり、現実的でない金額を支払う約束をしても意味がありません。
加害者の生活が破綻しない範囲で、現実的に支払える金額で妥結してもらうよう被害者と交渉することが重要です。
2.逮捕された場合の実刑の可能性
次に、逮捕された後の流れについてご説明します。実刑の可能性はあるのかについても見ていきましょう。
(1) 逮捕後の流れ|逮捕→勾留→起訴
《逮捕後の流れ》
逮捕・取り調べ(48時間以内に検察へ送致)→検察での取り調べ聴取(24時間以内に裁判所へ勾留請求)→勾留(10日〜20日)→起訴・不起訴決定→裁判
暴行事件で逮捕されてしまった場合は、その後48時間逮捕が続き、その間、取り調べを受ける可能性があります。
軽い事件であれば、ここで家に返してもらえる可能性もありますが(微罪処分)、相手の怪我の程度がひどい場合や容疑を認めていない場合は長引きます。
逮捕後48時間以内に、警察から検察に事件が送致されます。送致されると検察官からも取り調べを受け、検察官は送致から24時間以内に勾留請求するか否かを決定します。
勾留請求されなければ、この時点で家に帰ることができますが、勾留請求されて、裁判官が勾留を決定してしまうと、勾留請求された日からまず10日間、その後、捜査の必要を理由としてさらに最大10日間延長される可能性があり、合計最大で20日間留置施設に勾留されることになります。
この勾留の間に起訴・不起訴が決定します。不起訴であれば即釈放ですが、起訴されれば被告人勾留が続く場合もあります。起訴から早くて1ヶ月程度(通常は1ヶ月半から2ヶ月程度)で裁判が始まります。
このように、通常は、逮捕から起訴までの23日間身柄拘束が続きます。もちろん、起訴されれば家に帰してもらえるというわけではありません。
法律では、起訴しない場合は最大23日間で釈放しなくてはならないと定めているだけですから、起訴した場合は釈放されず、勾留が続くので、保釈申請をして認められない限りは、家に帰ることができません。
(2) 暴力事件の起訴率は3-4割
暴行罪の場合、初犯であれば、示談ができれば不起訴になる可能性は高いでしょう。
2016年の暴行罪の起訴率は29.6%(※)であり、これは再犯も含めた数字であるため初犯の場合はこれ以下の割合になることが予想できます。
傷害罪に関しては34.1%と少し起訴率があがりますが、それでも4割に満たない数字です。つまり、データ上では暴行罪・傷害罪では6~7割が不起訴となっています。
当然、この不起訴になった事件では、被害者と示談ができている場合が多く含まれます。
もっとも、被害者の怪我の程度が重い場合や再犯である場合は起訴される可能性も高くなります。
起訴されると、加害事実を認めている場合は有罪となります。執行猶予がついても、前科は残ってしまうため、このような状況にならないようにするための弁護活動が必要です。
※検察統計調査(2016年)「 被疑事件の罪名別起訴人員,不起訴人員及び起訴率の累年比較」
3.暴力事件では示談が有効
(1) 暴力事件で示談が重要な理由
暴力事件において、示談は非常に重要です。というのも、以下のような理由があるためです。
- 早期釈放の可能性が高まる
- 不起訴の可能性が上がる
- 不起訴となれば前科がつかない
- 早期に釈放されれば日常生活に早く戻れる
- 起訴されたとしても、裁判で有利な情状として考慮してもらえる
示談を逮捕後3日以内にまとめれば、勾留されずに釈放される可能性は高くなります。また、暴行罪・傷害罪の起訴率は3-4割程度ですが、示談があれば不起訴の可能性も高くなります。
また、不起訴となるということは前科がつかないということです。
釈放が早くなれば、仕事に早く復帰でき、職場にバレずに日常生活に戻れる可能性も高くなります。
(2) 暴力事件の示談金はどう決まるのか
先にご説明した通り、示談金は明確に決まっているものではありません。
ご紹介したような相場に関しては、あくまで目安となるものであり、実際の事件の内容によって異なります。
では、示談金額を決める材料としてどのようなことが影響するのでしょうか。
示談金額を決める材料としては、①行為態様、②怪我の程度、③被害者の気持ち、④加害者の資力が関係します。
①行為態様とは、事件の悪質性を指します。加害者側から暴力を振るったなどの事情があった場合は、加害者の非は大きくなります。
相手が抵抗できなくなったのに殴り続けたなどの事情があれば、示談金額が増額される事情として働きます。
②怪我の程度は、示談金額にもっとも影響します。暴力行為の加害者には、被害者に生じた全損害を賠償する義務があるからです。
前述したとおり、ケンカであっても、怪我の程度が重く、被害が深刻であれば、賠償額は巨額にのぼる場合もあります。
やむなく親が退職して退職金を示談金にあてる、自宅を売却して示談金にあてるなどのケースは珍しくはありません。
如何に金額の高騰を抑えつつ、被害者側の理解を得るかが重要となります。
③被害者の気持ちとは、処罰感情のことです。被害者の意思として「罰してほしい」という感情が大きければ示談が難航します。
④加害者の資力に関しては、収入が多いなどの事情があれば、その分示談金が上がる傾向にあります。
このように、示談金は事件に関するさまざまな事情を考慮して決定されるものです。交渉が非常に重要であることがわかるでしょう。
(3) 相手が示談に応じない場合
相手が示談に応じてくれない場合「もうこのまま放置しておこう」と考えてしまう方がいます。
しかし、仮に逮捕後一旦家に帰された場合でも、処分が決まっていない間は起訴される可能性は残っています。
被害者が示談に応じないということはそれだけ「処罰感情」が大きいため、示談がないと起訴される可能性は上がります。
「起訴されても罰金で済む」と考え、それほど深刻に考えない方もいるかもしれません。
しかし、起訴されてしまうと99%の可能性で有罪となります。確かに罰金で済む可能性も高いですが、前科は必ず残るのです。
示談できていれば起訴猶予となるのに、示談がないために起訴猶予処分とならないケースもあります。
さらに、示談しておかないと、刑事処分とは別に民事上の損害賠償責任は残りますので、慰謝料などの賠償金を請求され、支払わないと給与などを仮差押えされて、暴力事件を起こした事実を職場に暴露されてしまう危険もあります。
このように、示談を成立させないと大きな問題が人生に残ります。逮捕後に一旦家に帰れたとしても安心せず、弁護士に相談の上で粘り強く交渉しましょう。
4.暴力事件の示談は弁護士ご相談を
今回は、暴力事件における示談の重要性をお話ししましたが、示談では相手に謝罪の意を伝えることも重要です。
しかし、暴力事件の示談は弁護士を介さないと難しいです。
逮捕されてしまった場合や、相手が示談に応じない場合にはすぐに弁護士に相談してください。
示談に応じてもらえない場合も、こじれてしまう前に交渉のプロである弁護士を通し、粘り強く交渉することをお勧めします。
泉総合法律事務所では暴力事件も多数取り扱っており、大宮の地域事情にも詳しい弁護士が在籍しています。お困りの際は、当法律事務所にご相談ください。
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