後遺障害等級認定と3種類の慰謝料計算基準について
何か月も治療しても交通事故の怪我が完治しなければ、「後遺障害」が残ったということになります。この場合、自賠責保険の「後遺障害等級認定」を受けることが重要です。
自賠責保険における「後遺障害」にあたるとの認定を受けると、後遺障害の程度に応じた賠償がされるため(「後遺障害慰謝料」や「後遺障害逸失利益」など)、認定されなかった場合に比べ、賠償額が大きく増額します。
以下では、後遺障害等級認定手続について簡単に説明したあとで、後遺障害が認定された場合に払われる賠償の種類や金額等について説明します。
このコラムの目次
1.交通事故の後遺障害等級認定について
(1) 後遺障害等級認定とは
交通事故にあって、怪我の治療をしても、症状や怪我の程度によっては、なかなか完治しない場合もあります。
何か月も(通常は6か月程度)治療しても怪我が完治しなければ、「後遺障害」が残ったということになります。
もっとも、実際に、後遺障害に基づく賠償を受けるためには、自賠責保険の「後遺障害等級認定」を受けなければなりません。
具体的には、加害者側の保険会社を通じて認定を求めるやり方や(事前認定)、被害者側で様々な資料を集めて直接自賠責保険に認定を求めるやり方(被害者請求)などがあります。
後遺障害には14段階の等級が設けられており、1級がもっとも重症、14級がもっとも軽症のケースです(なお、後遺障害が残ったものの、自賠責保険の後遺障害としては認定されない〔非該当〕ケースもあります。)。
なお、不幸にして重度の後遺障害が残った場合では、それに対する賠償額が1億円をこえる場合もあります。
(2) 後遺障害等級認定されたときに受け取れる賠償金
先に記載したように、自賠責保険における「後遺障害」にあたるとの認定を受けると、後遺障害の程度に応じた賠償がされます。
具体的には、「後遺障害慰謝料」や「後遺障害逸失利益」などの支払がされるところです。
以下でそれぞれ説明します。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことに対する精神的苦痛を補填するものです。
交通事故で怪我をした場合、その怪我の程度に応じた慰謝料が払われますが(入通院慰謝料)、後遺障害が残った場合は、入通院慰謝料とは別枠で、後遺障害慰謝料が支払われます。。
後遺障害慰謝料の金額は、後遺障害の程度(等級)によって異なります。
後遺障害逸失利益
ところで、後遺障害が残ると、通常、事故前よりも労働能力が落ちて、将来の収入が減少すると考えられます。そこで、このような、将来の減収も、事故による損害として、加害者に請求できます。これを「後遺障害逸失利益」と呼びます。
逸失利益の詳しい計算はここには書きませんが、「事故前の収入額」や「年齢」によって影響を受けるので、ケースによって金額が大きく異なります。
また、重い等級ほど労働能力喪失率は増加しますので、その分、逸失利益は高額になります。
なお、後遺障害逸失利益を請求できるのは、基本的に「事故前に働いて収入を得ていた人」です。
よって、働いておらず、将来働く見込もなかった場合などは、逸失利益を請求できません(ただし家事労働に従事していた場合は「働いていた」と考えますのでご注意ください。)。
(3) 認定される等級の重要性
後遺障害等級認定を受けるときには、「等級」が非常に重要です。認定された等級が高くなればなるほど慰謝料や逸失利益が高額になるからです。
等級が高いということは、重い後遺障害が残ったということです。
症状が重い方が精神的苦痛も大きくなりますし、労働能力の低下度合いも大きくなるので逸失利益も高額になる場合が多いです。
重い症状が残っているのに、低い等級が認定されたり、非該当になったりしないように、適正な等級認定を求める必要があります。
2.後遺障害慰謝料の3つの基準
ところで、交通事故の後遺障害慰謝料には、3つの基準があることにも注意が必要です。
加害者側の保険会社との交渉の中では、どの基準を使うべきか、争いになることがあります。
具体的には以下の通りです。
(1) 自賠責基準
これは、自賠責から直接慰謝料の支払を受ける際に用いられる基準です。
具体的な金額は、自賠法施行令で、等級ごとに決められています。
もともと自賠責保険は被害者へ最低限度の支払いをするための保険なので、3種類の基準の中では、もっとも低い基準となっています。
(2) 任意保険基準
これは、任意保険会社が独自に設定している内部基準です。自賠責基準よりは少し高めに設定してあることが多いです。
弁護士をたてずに加害者側の保険会社と交渉する場合は、保険会社は、この基準か自賠責基準を用いて慰謝料を提示してくることが多いです。
(3) 弁護士基準(裁判基準)
これは、弁護士が示談交渉をするときや裁判所の判決の際に利用される基準です。3つの基準の中では、もっとも高額に設定されています。
裁判になった場合はこの基準で払ってもらえるわけですから、法律上認められた、もっとも適正な基準といえます。
後遺障害が残ってしまうと、治療費の負担や、日常生活での困りごとも多くなりますので、将来に備えて、この、もっとも適正な基準で賠償を受けるべきです。
(4) 弁護士基準と他の基準の比較
では、実際に弁護士基準とほかの基準を比べてみましょう。
まずは、弁護士基準と自賠責基準の後遺障害慰謝料の金額を比較してみましょう。
等級 |
弁護士基準(裁判基準) |
自賠責基準 |
---|---|---|
1級 |
2800万円 |
1100万円(要介護の場合1600万円) |
2級 |
2370万円 |
958万円(要介護の場合1163万円) |
3級 |
1990万円 |
829万円 |
4級 |
1670万円 |
712万円 |
5級 |
1400万円 |
599万円 |
6級 |
1180万円 |
498万円 |
7級 |
1000万円 |
409万円 |
8級 |
830万円 |
324万円 |
9級 |
690万円 |
245万円 |
10級 |
550万円 |
187万円 |
11級 |
420万円 |
135万円 |
12級 |
290万円 |
93万円 |
13級 |
180万円 |
57万円 |
14級 |
110万円 |
32万円 |
このように、弁護士基準は、自賠責基準より2倍~3倍高額です。
任意保険基準は各保険会社によって異なるので、弁護士基準と任意保険基準の比較は困難ですが、やはり弁護士基準の方がずっと高額になるのが通常です。
例えば、むちうちで後遺障害等級12級が認定されたとします。この場合、先ほど記載したように、弁護士をたてずに加害者側の保険会社と交渉しようとすると、保険会社から提示される慰謝料の金額は、おそらく100万円程度に留まると予想されます。
これに対し、弁護士に依頼した場合は弁護士基準を用いますので、慰謝料は290万円程度まで増額される可能性があります。
3.弁護士基準(裁判基準)を適用する方法
では、どうすれば弁護士基準(裁判基準)を用いた賠償を受けられるか。
これはやはり単純に、弁護士に示談交渉を依頼するのが最も簡単な方法です(弁護士に依頼せずに裁判基準を提示して保険会社と交渉しても、応じてくれない保険会社がほとんどです)。
なお、弁護士に依頼する場合、費用面の負担が心配になろうかと思います。
しかし、弁護士費用特約を利用できれば、原則として費用の持ち出しはありませんし、弁護士費用特約を利用できない場合でも、弁護士費用よりも、賠償額の増加の方が大きい場合がほとんどですので、ご安心いただければと思います。
費用について、詳しくは、直接問い合わせください。
4.後遺障害慰謝料に不満があるなら弁護士へ相談を
このように、交通事故で後遺障害が残ったとき、弁護士に依頼するかしないかで、受け取れる金額が大きく異なってきます。
保険会社から、数十万円とか、数百万円とかの賠償額を提示されると、「これだけ払ってもらえるなら、これで示談してしまってもいいか」と考え、そのまま示談してしまう方は多いです。
しかし、その金額が、あなたの後遺障害の程度に応じた適正なものかどうかは、一度立ち止まって、よく考えてみるべきです。
弁護士基準こそが、本来受けとることができる、適正な金額です。
これは、ご自身の将来に関わる大事な問題ですので、示談について不安に思ったら、まずは弁護士にご相談ください。
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